文字サイズ
  • 通常
  • 大
  • 特大
医師募集情報

項目別の詳細

新生児・乳児の診察

診察上の注意点

  • 1. 診察室に入ってからはまず表情を観察することから診察が始まる。顔つき、口唇色、呼吸状 態から疾患、病態、病状を推察する。
  • 2. 新生児・乳児期は母親と過ごすこと時間が長く、母親は子どもの様子について非常に良く把 握している。母親の訴えの中に診断や治療に結びつく重要なヒントがある。
  • 3. 診察は母親などの付添者に抱っこされた状態で行う方が患児は安心して診察を受けられる。 ただし必要に応じて全裸にしておむつの中(鼡径ヘルニア嵌頓や陰のう水腫など)や背中
    (仙尾部皮膚洞など)の所見を見落とさないようにする。
  • 4. 口腔内の所見は嫌がって泣いてしまうので最後に行う。

新生児・乳児の症候

  • 1.全身状態
    元気がなく顔面が蒼白で、刺激への反応が鈍い(診察しても嫌がらない)場合には重篤な疾患 である可能性が非常に高い。速やかに小児科専門医のいる医療機関に紹介する。
  • 2.発熱
    新生児や乳児では環境温を考慮せずに着せすぎている場合が多く、熱が籠もって体温が高く出ることがある。薄着にしてから再度熱を測ると良い。適切な環境でも38℃以上が続く時を発熱と考える。特に3ヶ月未満の新生児・乳児の発熱は発熱以外の症状がなくても重症感染症の場合があるので、小児科専門医に相談する。3ヶ月以上で全身状態が良い場合でも2−3 日以上続けばCBC、CRPをチェックする。
  • 3.けいれん
    単純型熱性けいれんは 5−10 分以内で頓挫し、意識の回復が速やかである。しかし15 分以上 続いたり、意識障害が遷延したり、繰り返したりする場合には複雑型熱性けいれんとして脳炎・脳 症や髄膜炎の可能性を考える。また無熱性のけいれんでは低血糖や電解質異常を確認し、神経学的所見などに異常がない場合に後日脳波などの精査ができる医療機関に紹介する。
  • 4.喘鳴・呼吸困難
    多呼吸、陥没呼吸を認め全身状態の悪化があれば入院が必要である。経皮的動脈酸素(SpO2)モニターは重症度の評価に有効だが体格に合ったセンサーを使用する。喘鳴や多呼吸は先天性 心疾患に伴う心不全でも認めるので体重増加や心拡大の有無を確認する。心雑音やSpO2低下がなくても心疾患は否定できないので注意が必要である。また気道異物の存在は鑑別疾患として忘れない。
  • 5.嘔吐
    持続している場合には必ず体重増加を確認する。生後1−2ヶ月であれば1日30g前後の増加があれば良いが、母子手帳を活用すると分かりやすい。体重増加不良があれば小児科専門医に紹介する。腸重積は早めの処置が必要な疾患であり見逃さないように注意する。嘔吐の原因は消化器疾患だけでなく、髄膜炎や脳腫瘍などの中枢神経疾患、低血糖やケトン血症などの代謝 性疾患、心不全と伴う心疾患などがあり、急性胃腸炎と経過が違えば小児科専門医に紹介する。
  • 6.下痢
    ウイルス性胃腸炎であることが多い。下痢が長引く時があるが元気があり体重が増加していれば経過観察で良い。頻回の下痢や血便を認める場合は細菌性も考慮する。

新生児・乳児で注意すべき疾患

  • 1.髄膜炎・敗血症
    何となく元気がない(not doing well)は要注意である。症状は非特異的で有り、発熱以外の症状 (哺乳量、鳴き声、四肢の動きなど)から侵襲性の感染症の有無を推察する。疑いが否定できなければ小児科専門医に紹介する。
  • 2.急性細気管支炎、気管支炎、肺炎
    RSウイルスは流行時期が夏にシフトしているので注意する。乳児期早期の罹患では呼吸困難の進行が早いことがあるので早めの入院も考慮する。原因が RS ウイルスでなくても急性下気道 感染症では夜間に咳で眠ることができない、きつくて哺乳できない場合は小児科専門医に紹介した方が良い。
  • 3.尿路感染症
    6ヶ月未満で発熱以外の症状がなく呼吸器感染症と診断できない時には尿検査を行う。乳児の 腎盂腎炎では水腎症や膀胱尿管逆流症などが背景にあることが多く精査が必要である。
  • 4.腸重積
    腸重積は嘔吐、血便、間欠的腹痛(不機嫌)が 3 徴候であるが全てが揃うことは多くない。腹部 の触診で腫瘤を触れることもあるが、疑えば超音波を行う。
  • 5.川崎病
    患者数が増えている疾患である。6つの主要症状のうち5つが揃えば診断基準を満たすが、症状が揃わない不全型もある。不全型は決して軽症ではなく、後遺症である冠動脈瘤が発生するので注意が必要である。抗生剤に反応しない熱が続けば川崎病は必ず考える。「咳が続く老人は結 核を疑い、熱が続く子供は川崎病を疑う」である。
  • 6.被虐待児症候群
    虐待が少しでも疑われたら子どもの所見だけでなく保護者の言動は正確にカルテに記載しておく。疑い例で自宅に帰さざるを得ない場合でも必ず再診を約束させる。行政の関係機関との連携が重要である。

幼児・学童の診察

診察上の注意点

  • 1.まず、顔色や呼びかけへの反応などの外観から第一印象を掴むことが重要である。
  • 2.小児は皮膚症状が多く、必要があれば脱衣による診察を行う。
  • 3.顔の診察は嫌がる児が多いので、口腔内や結膜の診察は最後にする。
  • 4.幼児の腹部診察は、児が落ち着くように保護者が抱っこした状態で行う。
  • 5.帰宅させる場合には、症状や期間といった再診の目安を保護者へ説明する。

幼児・学童の症候

  • 1.活気不良、not doing well
    顔面蒼白でぐったりしている場合には、敗血症など重篤な疾患の場合がある。意識障害がある
    場合や診断がつかない場合は専門医へ紹介する。
  • 2.持続する嘔吐
    感染性胃腸炎以外の鑑別として腸重積症、アセトン血性嘔吐症(自家中毒)がある。他に髄膜
    炎、脳腫瘍、てんかん、先天性代謝性疾患なども稀にある。
  • 3.便の異常
    消化器症状に血便を伴う場合には、細菌性腸炎や腸重積、炎症性腸疾患などが鑑別に挙がる。
    白色の水様性下痢がある場合は、ロタウイルスやノロウイルスを疑う。
  • 4.4日以上持続する発熱
    一般感染症の他に尿路感染症、敗血症、川崎病などがあり、診断が難しい場合は専門医へ紹
    介する。尿路感染症は膀胱尿管逆流症などの精査を要する場合もある。

幼児・学童で注意すべき疾患

  • 1.急性中耳炎
    乳幼児期の急性上気道炎に合併しやすい。「耳を気にする、耳が痛い、耳漏がある」などの症
    状を問診し、鼓膜の観察を行う。
  • 2.クループ症候群
    犬吠様咳嗽、吸気性喘鳴、嗄声が特徴である。泣くと症状が悪化するため注意する。
  • 3.喘息発作
    β刺激薬で十分な改善が得られない中発作~大発作は入院適応である。
  • 4.虫垂炎
    感染性胃腸炎の鑑別疾患であり、疑えば専門医へ紹介する。低年齢では非典型例も多い。
  • 5.腸重積
    嘔吐、腹痛(間欠的)、粘血便、腹部腫瘤が特徴だが、全てが揃うことは少ない。診断すれば空
    気や造影剤を用いた非観血的整復術もしくは外科的介入が必要である。
  • 6.川崎病
    6 つの主要症状のうち 5 つが揃えば診断基準を満たすが、症状が揃わない不全型もある。不全
    型は決して軽症ではなく、後遺症である冠動脈瘤が発生するので注意が必要である。抗生剤に反
    応しない発熱や高熱を伴うリンパ節炎では川崎病を必ず鑑別する。
  • 7.尿路感染症
    熱はあるが感冒症状が無い場合には尿検査を実施する。可能であれば中間尿かカテーテル尿
    を採取し、培養検査へ提出する。抗菌薬を静注する場合は入院適応である。
  • 8.髄膜炎
    肺炎球菌、Hibワクチンにより頻度は減少しているが、発熱時に意識障害やけいれん、髄膜刺激
    症状を伴う場合には鑑別が必要である。特にワクチン未接種者は注意する。
  • 9.肘内障、鎖骨骨折、股関節疾患
    腕を上げない、足を引きずる等の非特異的な症状の原因であることがある。受傷機転が明らか
    でないことも多い。画像検査を躊躇せず、対応困難な場合には専門医へ紹介する。

小児の喘息の治療

診察上の注意

外来における喘息の治療は、現在発作を起こし呼吸苦などを訴えて受診されている患者の初期的な治療と、繰り返し喘息発作を起こして来院される慢性的な症状に対し、長期管理をする治療とに区別されます。今までに加療既往があると思われますので、まずは問診にて詳細な病歴・投薬歴を確認することが重要です。基本は治療効果の優れた治療を選択し、類似治療を行うことで、急場は凌げます。しかし、いつか初発発作のこどもが訪れます。

小児気管支喘息の治療目標

最終的には寛解・治癒を目指す。日常の治療目標は以下の通り。

  • Ⅰ 症状のコントロール 短時間作用性β2 刺激薬の頓用が減少、または必要がない。
    昼夜を通じて症状がない
  • Ⅱ 呼吸機能の正常化 ピークフローやスパイログラムがほぼ正常で安定している
    気道過敏性が改善し、運動や冷気などによる誘発症状がない
  • Ⅲ QOL の改善 スポーツも含め日常生活を普通に行うことができる。
    治療に伴う副作用が見られない。

急性発作の治療

喘息発作には3段階があります。詳細については清書でご確認下さい。

  • ① 小発作:日常生活は普通に送れるが、聴診上喘鳴がある、SpO2≧96%
  • ② 中発作:咳込む、食欲低下、時々寝ている間に目を覚ます、SpO2 92~95%
  • ③ 大発作:明らかな呼吸困難、不眠、食事不能、SpO2≦91%

②については初期治療の効果の結果で、③については酸素投与を行いつつ、初期治療を行い、 後方病院の小児科医師にご相談下さい。特に③に関しては、入院加療が望まれる状態であり、転 院方法などの検討が必要です。一般診療所での治療は中発作までと考えて下さい。

初期治療:β2 刺激薬(サルブタモール or プロカテロール)<0.3ml:JPGL2017 で統一>
   + 生理食塩水 2ml または DSCG(2ml) にて行います。
追加治療:ステロイドをゆっくり静注する。
ヒドロコルチゾン 5-7mg/kg
メチルプレドニゾロン 1-1.5mg/kg
プレドニゾロン 1-1.5mg/kg
アミノフィリン:頻度は低いがけいれん重責発作を惹起する可能性
    経口未:4-5mg/kg
経口有:3-4mg/kg 30分以上かけて点滴静注
※ 追加治療については、後方病院の小児科医師と相談するのがベターと考えます。

長期管理

治療の強弱は匙加減なので、慣れた先生のご紹介するのが安心・安全です。
基本的に治りの悪い喘息患者は小児科とタイアップして、経過を見ていくといいでしょう。
何かあった場合の初期治療に精通するのが重要です。

また安定しているかどうかの判断は、日常の情報収集が最も重要です。
「大丈夫でした。何もありませんでした」と、ご家族は申し出てきます。
質問の際には、
「走ったりしたときに、咳が出ない?」
「寝る前や朝起きた時に咳が出ない?」
「内服忘れした時には、咳は出ない?」
など具体的なピンポイントの症状を引き出すのが重要です。
受診時の内服後調子のよいときで、安静時に診察を行っても呼吸音は概ね良好です。
日常の動きの中の症状を聞き取りすることが重要で、安定性の確認には有用と考えます。

また、診察時のコツとして、ちょっと笑わせてみましょう。
不安定なこどもの場合、痰がらみのする笑いを引き出すことができます。
乳児の場合も、泣く・笑う際に、痰がらみの状況が見えることがあります。
ワクチン接種の際に、ゼイゼイするこどもを見つけ出すことが結構あります。

[参考文献]
日本小児アレルギー学会 小児気管支喘息治療・管理ガイドライン 2017
喘息ガイドライン-岐阜県医師会 平成 31 年 3 月改訂版

【小児科領域推薦図書】
①小児科当直医マニュアル 神奈川県立こども医療センター小児内科・小児外科
②初期研修医・総合診療医のための小児科ファーストタッチ 岡本光弘
③子どもの病気ホームケアガイド 日本外来小児科学会
④小児の薬の選び方・使い方 横田俊平